生涯一書痴! 病高じて古本屋の店主になってしまった、ぺんぺんの読書日記です。書評ってほど偉そうなものではないですが(汗)読んで楽しかった本、いろいろ考えた本を紹介したいです
初めて入った理容店。
女主人のおしゃべりと心地好いマッサージににウトウトしているうちに、
髪形はすごいことに・・・

金髪!
しましま頭!
丸坊主!


おーまいがあー!!Σ( ̄ロ ̄lll)

本人も周囲も戸惑うなか、そのせいで、いつしか性格まで変わっていき、
とんでもない出来事が…。
髪形の変化が巻き起こす、愉快、痛快、爽快な「事件」を描く連作短編集。

収録されている6編の主人公は、
本当に、どこにでもいそうな人たちだ。

気弱で上司にも後輩にも思ったことが言えず、
いつも人の顔色を伺って、遠慮ばかりしている庶務係の女性。

記憶喪失の男(実は・・・)。

定年退職して何もすることがないおじいさん。

「すみません」が口癖の頼りないサラリーマン。

就職浪人したが行きたい会社がみつからない女の子。

空き巣に入られた上にリストラされそうな、とほほなOL。

会社や家庭で言いたいことも言えず、
不満をためていた人たちが、
髪形が変わるだけで
面白いように性格まで変わってしまう。
言えなかったことを口に出し
できなかったことをやってみようと思う。
ささやかな変化だが
その人の人生にとっては大きな転換点となる出来事。
そんな「事件」を
あたたかい視点で描いた作品集だ。

髪型を変えるだけで、
人生そのものが変わることは現実にはありえないかもしれないが
リアリティのあるエピソードの積み重ねと
本当に身近にいそうな、そしてある意味自分を見ているような
人物造形と心理描写で
このファンタジーめいた物語を
明日、起こっても不思議じゃないこと」のように
現実感を持って読ませる作者の力量は
半端ではない。

あたしは、すでに
「髪型を変えるだけで人生は変わらないが
何かのきっかけには十分なりうる。」

と信じて始めている。(笑)

理不尽な世の中で
多くの我慢を強いられている人間には
普段、あまり意識はしないけど
「こういうふうにできたらいいなあ」
と思ってることがきっとある。
今日はなんとか持ちそうだからと
ラップをかけて心の冷蔵庫にしまっておく不満。
本当はやりたいのに、
仕事、家事、育児で、後回しにしてしまう願い。

人に嫌われたくなくて
波風を立てたくなくて
職や地位を失いたくなくて
目立ちたくなくて
怖くて
怠惰で
もしくは、自分の願いにさえ気づかないほど疲れていて

いろんな理由で、封じ込まれた願望。

この物語の主人公たちは
「きちんと自己主張する(嫌なことは嫌だと言う)」
「理不尽な目にあったら反撃する」
「犯罪から積極的に自分を守る」
「自分に自信をもつ」
「不正に目をつぶらない」
「自分が本当にやりたいことをみつける」

という自分の願いに
髪型が変わるという、ささやかなきっかけで向き合うことができたのだ。

思っていたことを実行に移し
言いたいことを言い放つ彼らの姿は、
水戸黄門の印籠」的に、

すこーーーーんと突き抜けたカタルシスを与えてくれる。

いや、ご老公がなんだかんだいっても
個人の力量ではなく
「権力」を支えにしていることを考えると
むしろ「ロッキー」的と言ったほうがいいのか(笑)

「エイドリアーーーーーンっ!!」

みんなの心の奥底の願望を
見抜いたかのように
その人に合った髪型を
勝手に、ざくざく作ってしまう(笑)魔法使いのような女理容師が
結局、どういう人なのか謎のままなのも
なんとなく、あたしは好きだぞ(笑)

さて。
ただひとつ、悩んだのがタイトル。
「わらの人」
「わらの人」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんで「わらの人っ」???

溺れる者はわらをも掴む」?
謎の女理容師さんが
彼らにとって、そういう存在だったってこと?
うーん。
でも、微妙に違うような・・・
知らずに掴んじゃったわけだしな(爆)

と書いたところで
なんか・・・
わかったような・・・

もしかして
サム・ペキンパー監督
ダスティン・ホフマン主演

あれかもっ???

「わらの犬」!!

物騒な都会生活から逃れるため、
妻と共に田舎に引っ越した数学者が
村の若者たちから理不尽とも言える卑劣な嫌がらせを受け
何をされても無抵抗だった平和主義者の彼が
ある日、あまりの仕打ちにぷっつりキレて
大爆発という・・・

確かに、第一話「眉の巻」の沙紀ちゃんの
反撃に通じる空気があるような気がする。
(あ、あの映画と違って
あくまでも後味はいいからね。笑)

もともと「わらの犬」は
老子の言葉から来ていて
「とるにたらないもの」というような意味もあり
この「わらの犬」ならぬ「わらの人」には

「日常ウォーズ〜普通の人々の逆襲的な

意味がこめられてるのかもしれない。

waranohito.jpg

「わらの人」山本甲士(文藝春秋)

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‥‥偶然出会った本にいざなわれ、
不思議な縁や出来事に遭遇する人々の
せつなくてやさしい9つの物語。

「WEBダ・ヴィンチ」で連載されていた
本にまつわる物語」9編を収録した単行本で
著者・角田光代さん自身の本とのかかわり、本の思い出を
描いたエッセイというか、長めのあとがき「交際履歴」もいい。

ネパール、そしてアイルランド・・・
学生時代に手放した本と、異国の古本屋でめぐりあう「旅する本

旅先で寝込んでしまったとき
バンガローの食堂で日本語の本を見つけ
それを置いていった人について思いをめぐらせる「だれか

作家としてデビューすることになった<ぼく>が
子どもの頃、<世界への扉>だった街の小さな本屋を
再び訪れる「ミツザワ書店

病気で余命いくばくもないおばあちゃんのために
孫である少女が本屋をめぐる「さがしもの

別れることになった恋人の部屋で
本棚を整理しながら
本の隙間からこぼれおちるような二人の思い出をふりかえる
彼と私の本棚

など

舞台も登場人物もまったくリンクしていない
「本」にまつわる内容だけが共通している短編集。
こうして、あらすじだけ
書いてみたら、なんてことのない平凡な物語のように思えるが
読後にあふれかえる思いの量は
普通の本の比ではない。
作中の人物たちに
「本」にまつわる、さまざまな思い出があるように
この本を手にした私たちにも
同じように
たくさんの「本」との思い出があるからだ。
「ああ、こんなこと、ある」と
物語の主人公に共感しながら
あの日、あのときの、自分と「本」との出会い
誰もが思い出さずにはいられない。

いま、ここにある「本」と
自分の心の中にある「本」を
同時に読んでいるような
そんな気持ちになる。

「本への愛情」を込めて綴られた物語は、
どれも「本が好き」な人は、
たまらなく共感してしまう内容で
また、作中の「本」に関する言及は、
何度もかみしめて、心の中で反芻してしまうような
名言とも言える言葉が
何気なく、きらきらと光を放っている。

「だってあんた、開くだけで

どこへでも連れてってくれるものなんか、

本しかないだろう」


「1回本の世界にひっぱりこまれる
 興奮を感じてしまった人間は、
 一生本を読み続けていると思う。」


「そう、本は人を呼ぶのだ。」

この三つは特に
表現は違うけれど
ぺん自身が、何度も自分の日記や、本のレビューに
書いたことのあることで・・・
きっと、本を愛する人なら
これらの言葉を自分のこととして
大きく頷きながら、読むのだろう。
ある種の読書家の共通認識のようなものかも?
と思うと、それもまた楽しい。

そして
この「本」自体から
関わった、たくさんの人の愛情が感じられることが
何よりも素晴らしいと、あたしは思った。

カバーそして、各話のあいだに挟まれた写真は
空に飛んでいる本」で
<この本が、必要とされている人のところへ飛んでいくように>
という願いがこもっているようだし
また、すべての短編の文字組みを変えてあることにも
それぞれの話が、それぞれの人にとって
かけがえのない1冊」を
表現しているようで素敵だ。

本を愛している作家が綴った、
本を愛している人たちの物語の愛おしさに
共感した人々が
これまた、できるだけ多くの
本を愛する人たちに届くようにと
心をこめて作った本は
たくさんのやさしさを身にまとって
世界に広がっていく。

世界の片隅で
同じように「」を愛して
」を届ける仕事をしている、ぺんも
ちょっとだけ、お手伝いをしたい気持ちになったので
書いてみた。

「この本が、世界に存在することに」感謝したくなるような
そんな一冊に
あたしが、そしてあなたが出会えますように。

konohon.jpg

「この本が、世界に存在することに」角田 光代
(メディア・ファクトリー)

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いまどきの高校生・小梅と、冴えないサラリーマンのパパ。
16歳と47歳。
ある日突然、二人の人格が入れ替わってしまったら?
ドキドキの青春あり、ハラハラの会社員人生あり。
心あたたまる家族愛を描いた
笑いと涙のノンストップ・エンターテインメント ?

五十嵐貴久は前から読んでる作家さん。
まだそこまでメジャーではないと思ってたんだけど・・・
なぜか、読み終わった日(7月1日)に
TBSの日曜劇場ドラマの放送が始まって、びっくり。
(主演:舘ひろし、新垣結衣
不思議なシンクロニシティを感じたので
取り上げることにした(笑)

五十嵐貴久の小説は
サスペンス、青春小説、時代小説と多彩。
特徴的なのは、元ネタをすごく上手に料理する手腕かな?
安政五年の大脱走』はあの名作映画『大脱走』を
井伊直弼に懸想され幽閉された姫と家臣たちの脱獄劇に仕立てた作品だし
Fake』は『スティング』のコンゲームの楽しさいっぱいで
ハイジャックされたテレビ局で
婚約者を助けるためにヒロインが大活躍する『TVJ』は
思いっきり『ダイ・ハード』なの(笑)

で、この「パパとムスメの7日間」は
なんだろう・・・?
って考えたら
多分、『転校生』・・・・かなあ?
山中恒の「おれがあいつで あいつがおれで」を原作に
大林宣彦監督、小林聡美・尾美としのり主演で
尾道三部作」のひとつとして知られる作品。
尾道から転校してきた一夫と、老舗そば屋の娘・一美は、
ある事件をきっかけに身体が入れ替わってしまう。
男女の身体の違いを痛感し戸惑うふたりだけど、そんな状況にあってこそ気づく、
自分のことや家族のこと、そして互いへの想い。
そんな状況がおかしくも、最後に切なく泣いてしまう青春ファンタジー。
ぺんももちろん見たよう♪
最近、現代のテイストを取り入れて
大林監督のセルフリメイク作品「転校生―さよならあなた―」として制作され
現在公開中。

でも、実はこの入れ替わりネタは
日本では古来からある。
なんと古くは平安朝だぞっ!
まずは「とりかえばや物語
高貴な貴族の家に生まれた男女の双子。
男の子はひ弱で女々しく、女の子は凛々しくやんちゃ。
なんだか性別を取り違えて生まれてしまったみたいな二人。
男装の女児である「若君」は男性として宮廷に出仕するや、
あふれる才気を発揮し、若くして出世街道を突き進み
女装の男児である「姫君」も女性として後宮に出仕を始める。
でも、それぞれ成長しながらも、初めての恋ゆえに
自らの天性に苦悩し始めた二人は今度は元の姿に戻るために四苦八苦。
本来の性に戻った2人は、それぞれ自らの未来を切り開き、
関白・中宮という人臣の最高位に至る。
これを少女小説にアレンジしたのが氷室冴子の小説『ざ・ちぇんじ!』で
山内直美によって漫画化もされてる。
まあ、この二人の場合は単に、男装女装で
心が入れ替わったわけではないけど。
この発想がこんな昔からあることは興味深い。

最近の作品では
唯川恵の「今夜は心だけ抱いて」
五十嵐作品と同じ着想だ。
幼いころ、離れ離れになった母娘がある事故がもとで体が入れ替わる。
そして知る、互いの立場の長所、短所。
それぞれの運命を受け入れ、
憎しみあっていた二人の関係が改善されるさまを
恋愛主体に描いたもの。

他にも
かのベストセラー東野圭吾の「秘密」
(妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。
妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。
その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まる。)

別人ではないけど
ある日、目が覚めたら17歳だった少女が
時を跳び、同じ17歳の娘を持つ40代の母親である未来の自分になっていた・・・
身体という器は、おばさんなのに
心はみずみずしい高校生というギャップが切ない
時空ものの名作が北村薫の「スキップ」

他にも・・・・いろいろ。
枚挙に暇がないほど。
そんなわけで入れ替わりモノと言えば

二番煎じどころか、すでに出涸らし状態のテーマだよう???
これを、敢えて書くとは・・・・

どうするんだ???五十嵐!

と正直思いました(笑)

でも、おもしろかったんだよ!これが

大手化粧品メーカーに勤め、
新商品開発プロジェクトのリーダーとして
御前会議を控えたサラリーマンの父と、
憧れの先輩とのデートと期末テストを目前にする娘。
地震による脱線事故に遭い、人格が入れ替わってしまった二人は
それぞれ
」と「会社での微妙な立場」という
普通なら家族には見せたくない領域を
共有することになる。

タイトルの通り
7日間で元に戻るであろうことは予測できるし
ストーリーもかなり予定調和的に進んでいくのだが
エピソードの積み重ねで
ぐいぐい読ませる。

父を疎ましく思い、遠ざける年頃のムスメと、
それに寂しさを覚えつつ上手く気持ちを伝えられない父との距離感の
描写が絶妙。
それぞれに大事なイベント?を控えているため
元に戻れるまで一時的に共闘体制をとることになる父娘だけど
普通に日常生活を送るのが結構、大変。
トイレや風呂問題が意外に切実だったりして笑える。
女子高生にしたら
自分の体は

「見るな!」「さわるな!」「ぶっ殺す!」

なわけで(笑)
母親がいない隙に、
意識はパパのマイボディを(笑)目隠しして風呂で洗ってあげたりする。
父は父で、メールを打つのに一苦労したり(笑)

男女の性差へのとまどいは
前述の『転校生』でもコミカルに上手く描かれていたが
そこに47歳の中年サラリーマンと、16歳のバリバリ女子高生
というジェネレーションギャップをからめたとこが
五十嵐風味。

どっちに感情移入するのかは
読み手によるだろうけど、メインとなる
憧れの先輩との初デートの顛末
会社の大事な会議
はどちらも、楽しい。

特に、あたしは
社運を賭けた新企画?と言いながら
結局、各部署のメンツを立てただけ
旧態依然としたお偉いさん方のこれまたかわりばえのしない発言により
なーんの新味もない商品に成り下がろうとしてるパパがリーダーの企画会議で
「買うのはあたしたちなんだよ?
誰のための商品なんだよ?!」

とマジ切れちゃった小梅(ムスメ)ちゃんが
女子高校生的見地からの
マーケティングに関するストレートな意見を
大爆発させるあたりが、めちゃくちゃ楽しかった♪
「忌憚なく意見を述べてくれたまえ」
なーんて言いつつ
結論は決まってるみたいな会議に
嫌気のさしたことのあるサラリーマンなら誰でも

このシチュエーションは愉快痛快!(笑)

笑えて、ちょっと胸のあたりがほかほかするタイプの本が好きなら
おすすめできる。

papatomusume.jpg

「パパとムスメの7日間」五十嵐貴久(朝日新聞社)

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うわああ
こりゃあ、日本版「シリアル・ママ」だよっ!!(笑)

「シリアル・ママ」は1994年の映画
アメリカの朝食の定番シリアル(cereal=コーンフレークス)を
片手に微笑むのがぴったりの善良な主婦が
実はシリアル・キラー(serial killer=連続殺人鬼)の
ぶち切れママだった!
というブラックなホームコメディ。

ゴミを分別しない隣人、
駐車場で横入りする奴、
娘を捨てて他の女の子に乗り換えたチャラい男
あんたの息子の頭じゃ志望校に入れん、と偉そうに言う教師、
ビデオを巻き戻さずに返すおばさん
など
を次々と、にこやかに血祭りに!
羊のローストでの撲殺
数々の映画の殺人シーンの中でも
ものすごいインパクトである(笑)
この際、モラルは置いといて
平凡な主婦=殺人鬼という設定が
めちゃめちゃ笑える快(怪?)作

で、本題の
「ママの狙撃銃」

福田曜子はふたりの子をもつ主婦。
夫の孝平は中堅企業のサラリーマン。
ふたりは、ごくふつうの恋をし、ごくふつうの結婚をしました。
ただひとつ違っていたのは…。
奥様は・・・暗殺者だったのです。
(「奥様は魔女」風)

幼い頃米国に住む祖父の元で暮らした曜子は、
祖父からあらゆることを教わった。
射撃や格闘技、銃の組み立て・分解。
やさしい祖父の職業は「暗殺者」だったのだ。
祖父の死後、天涯孤独となり
今は日本で主婦として平和に暮らす曜子のもとに
25年ぶりにエージェントであるKから突然の電話。
かつて、曜子は一度だけ、祖父の代理で「仕事」をしたことがあった。

ちょっぴり甲斐なしの旦那のために
手に入れた家と家族を守るために
曜子はふたたび、銃を手にする・・・

殺人、暗殺という非日常
とんでもなく、ベタでみみっちい日常(笑)が交錯する
面白さ

くり抜いた大根に、レミントンの機関部分
芯を抜き出した下仁田ネギに、銃身を
焼きたてパンの店で買ったバゲットには銃床
消音器とスコープは肩ロースのトレー
(上には肉をしきつめて)
レンコンの穴にフルメタルジャケット(完全被甲弾)

ちゃきちゃきと暗殺の準備をしながら
くり抜いた大根とネギの中身を
「鍋に使える」と冷蔵庫にしまう主婦魂(笑)が最高だ

今まで、自分の能力を、本性を
巧妙に隠して、平凡な主婦そして母親を装ってきた曜子が
娘を陰湿にイジメる首謀者である小悪魔のような少女相手に
キャスリーン・ターナーばりにマジ切れる場面は圧巻

「シリアル・ママ」が
文字通り連続殺人鬼で、快楽殺人の色合いが濃いのに比べ
「ママの狙撃銃」の曜子は
常に、自分の過去や、
「殺人」「暗殺」というものへの望まないながら恐ろしい適性に
悩み続けている
それでも
家族を守るためなら
とことん強くなれる「母」という存在の
悲しさと美しさ

シリアスな内容を
コミカルな文体と描写で
さくさく読ませる荻原浩の魅力に
ぴったりはまるテーマで
すべてをごまかさずに受け止めて生きようとする潔さ
明日への元気になる一冊。

mamanosogekijuu.jpg

「ママの狙撃銃」荻原浩(双葉社)
よかった!また会えて

先日から、亡くなった彼への気持ちに少し整理がつき
作品を読み返すことができるようになったのだけど
遺作「酒気帯び車椅子」
絶筆の「ロカ」
以外に、まだあったんだ?!未発表の作品

この「君はフィクション」
彼が生前最後に手がけていた小説集で
亡くなった2004年7月26日の
ちょうど2年後(3回忌)に出版されたもの

光文社文庫のホラー系アンソロジー
「異形コレクション」
収録されている2作
「コルトナの幽霊」
(映画をモチーフに人間の恐怖の本質に迫った
めちゃめちゃ怖い作品)
「DECO-CHIN」
フリークスへの憧れと、至高の音楽を求める魂が奏でる
恐ろしくも美しい一品)

いまは品切れ本となっている
らもさんのデビュー作(自費出版を除く初単行本)
「頭の中がカユいんだ」から
あの懐かしの奇人変人話である
「東住吉のぶっこわし屋」

そして、
亡くなった時点では
単行本未収録だった
<ダ・ヴィンチ><青春と読書><小説すばる><文芸ポスト>
などの雑誌掲載作品

「山紫館の怪」
(落語的なオチのきいたホラー)
「君はフィクション」
(恋愛小説であり、多重人格もの
ラストが、とても、らもさんらしい)

ロッカー山口冨士夫にささげた
「ねたのよい」
「結婚しようよ」
は共に、自伝的で
70年代の音楽シーンの空気のつまった作品

「バッド・チューニング」
も音楽が主題だが
こちらは楽器になぞらえて人間の心理を描いたもの

そして
書き下ろしの未発表作
「水妖はん」
(民話的なおもしろさを持つホラー系作品)
舞台を知り尽くした彼らしいスラップスティックな
「狂言 地籍神」

あの、初期の頃の
暴走する浪花のお笑いエッセイ以外の
「小説家」としての中島らも
ひとつのジャンルにおさまりきらない魅力
多面的な才能
その全部が感じ取れる作品集で
読むたびに、いくつもの顔を見せてくれた彼の
全体像が見えるような気がする一冊

幻想、不条理、愛、笑い、恐怖、毒
そして音楽


もしも、まだ、彼の作品を読んだことのない人に
「中島らもってどんな作家?」と訊かれたら
この本を差し出すのが
もしかして一番わかりやすいのかもしれない

そして、ある意味
あたしが一番感動したのは
巻末の
中島さなえ「父のフィクション」
この作品の刊行にあたって
らもさんの娘さんである彼女が
作品への感想、現在の中島家、亡くなる前のらもさんの思い出
などを綴った短い文章だが
父ゆずりの明晰な知性、やわらかいユーモアが
すぐに感じ取れる
子どもが自分の親の仕事をここまで
冷静に愛情をこめて深く理解しているというのは
なんて、すごいことなんだろう!

いつも、何かに飢えているような
ひとつのことに満たされずに
どんどん先へ・・・先へと
走り続けているような彼の文章だけど・・・
「父」としての彼の人生はきっと
満たされていたんだろうな
それがわかっただけでも、よかった

kimihaficshon.jpg

「君はフィクション」中島らも(集英社)

中島らもの本
「さかだち日記」
「獏の食べのこし」
「微笑家族」
「輝きの一瞬」
「愛をひっかけるための釘」<文庫>
「愛をひっかけるための釘」<単行本>
「リリパット・アーミー しこみ編」
「頭の中がカユいんだ」
「僕にはわからない」
「中島らものばしっと明るい悩み相談室」
「中島らものつくづく明るい悩み相談室」
「永遠も半ばを過ぎて」
「今夜、すべてのバーで」
「らもチチ 私の半生 中年編」
「なにわのアホぢから」
「白いメリーさん」
「空からぎろちん」
「変!!」
「ガダラの豚2」
「ガダラの豚3」
「あの娘は石ころ」

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リストラされた父親が姿を消した。
14歳 ケイ  →陸上部をやめて新聞配達
17歳 カナ  →いい子をやめて深夜までバイト
27歳 リュウ →急に家長の意識に目覚める
42歳 薫   →すっかり酒びたりになる
73歳 新造  →認知症が進行してしまう
いったい、この家族、どうなるの?


という帯のコピーそのまんま(笑)

陸上をやっている中学生の次男から
バトンリレーのように
それぞれの言葉で語られる「家族の物語

正直言って、第1話は、キツかった(笑)
ぐはー
若い〜青い〜
アングリー・ヤング・メーンっ!

<盗んだバイクで走り出しそうな>(笑)疾走感
いらだちまでもが感染する
このまま暴力、破壊の道へ爆走するの???
家族はさらに不幸のずんどこ?
暗黒系か?その路線はちょっと嫌〜〜
と思ったら
全然違ってた(笑)

とりあえず、最後まで読め!(笑)

そうか、中坊の語る物語は中坊の感情でしかないわけだ(笑)
あまりに文体と感情描写が等身大なため
中学生の気持ち
女子高生の気持ち
青年の気持ち
主婦の気持ち
じーさんの気持ち
それぞれに同化させられる一人称の魔法

バトンが渡されるたびに
語り手が変わるたびに
少しずつ姿を変えていく物語の中で
家族はそれぞれに心に何かを抱えているが
年齢を重ねるほど
感情、過去の記憶、秘密という荷物は重い
なのに隠し方は巧妙になる

もっと重くて暗い魂の叫び的純文学にもできる材料を
笑いでくるんだポップな文体
(じーちゃんの「味噌汁お代わり、シルブプレ」がツボ。笑)
「厭世」「フレーバー」であって
「厭世」そのものではないところがいい
実は、半分、あるいは全く血のつながりのない家族が
ゆるーく崩壊して
ゆるーく再生する

中途半端な感じが
より現実の人生に近い何かを、心の隅っこに残していくような読後感

本人は登場しないのに
家族の口から語られる失踪した父親の人物像がいい味
実は主人公はこの人なのか?(笑)
意味もなく豪快で
とりあえず「手が届く所にある世界は救っておく」男気と
はた迷惑な優しさ
あたしの好きなタイプだ(笑)
猫に「部長」と名付けるセンスも

家族ってなんだろう?
とか考えたりしたときに
「家族が何を思っているかなんて知る必要はない、
何をしているかだけ知っていればそれで十分」

という言葉は
ある意味、いい感じに脱力させてくれるような気がする
全部を抱えようとして動けなくなったら
思い出そう

うむむ・・・
なんか、最近すごくニュアンスの似た文章を読んだような・・・

いま、探したら、何日か前に
店の本に書くブックレヴューのために読み返したものだった

「家族というものは、もっとバラバラなものだと思う。
バラバラが健康な形だと思う。(略)
素晴らしい家族とは、それぞれの生き方で生きていながら、
共に生きているという感情を持ち続けている家族だと思う」

(山田太一『昼下がりの悪魔』)

ほんの一瞬かもしれないけど
お弁当を持って駅伝の応援に行く
「厭世フレーバー」の家族には確かにそれがあった
よせあつめみたいな、なりゆきで一緒にいるみたいな家族が
それでも、共に生きていくことを疑いはしない気持ちが

ensei.jpg

「厭世フレーバー」三羽省吾(文藝春秋)

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んーと
簡潔に言うとタイムスリップもの(笑)
で、テーマは戦争

帯から引いておくと・・・

「2001年9月12日
世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだ翌朝も
尾島健太(19)はテレビの臨時ニュースや新聞には目もくれず、
一人サーフィンに出かけた
バイトをクビになりガールフレンドのミナミとも喧嘩中で会えないからだ
しかし、大波に呑まれた健太が目を覚ますと、
そこは1944年だった!」


「1944年9月12日
霞ヶ浦飛行場から飛び立った石庭吾一(19)は、
「海の若鷲」に憧れる飛行術練習生だ。
しかし、操縦を誤って海に墜落してしまう。
蘇生した吾一が目覚めたのは、なんと2001年だった・・・。」


根拠なしポジティブのフリーターと
バリバリの特攻隊員が入れ替わったらどうなる???

荻原浩
シリアスな内容をポップな文体で綴れる
現代に必要とされるタイプの作家さん
この本も若い人のためには
すごく役に立つ作品だと思う
自分の境遇とかけ離れた世界を理解するには
いかにして感情移入させるかという技術が必要になる
この作品ではキャラクターの設定が身近で
抵抗なく読めるはず
今の10代、20代に「戦争」をわかれ、というのは無理があるよね
30代のあたしでも、リアルには感じられないもの
でも、物語の中でも少しでも
戦争の怖さを伝えることは、とても大事だと思うの
二度と同じことを繰り返さないために

読んでるうちに
とても近いテーマの作品を思い出した
山田太一「終りに見た街」
もう売り切れてしまったけど
店に出したときのレヴューを

「山田太一は小説もシナリオも好きで
結構読んでいるつもりだったのだけど、
これは古いためか未読でした(品切れ本だし)
たまたま見つけて。でも読んでよかった。本当に怖かったけれど
これを怖いと思える自分はまだ、まともな感性を持ってると思った
ぶっちゃけ言うと、80年代に暮らす普通の家族二組が
昭和19年のあの戦争のさなかにタイムスリップしてしまうという話
父たちは戦争を経験しているし、歴史も知っている
何とか家族の身を守りつつ終戦までやりすごしたい
それだけでなく、できれば起こるはずの大空襲から
他の人々も守ってあげたい
奮闘する父親を見て子どもたちは「親父見直したぜ」になるんだ!
と一瞬思ったけど山田太一の作品がそんな単純なはずがなく・・・
幼い子どもたちは時代の空気に染まって
<お国のために>に同調しない親を責めるの(涙)
戦争が怖いのは多分死ぬことへの恐怖でも物の足りない不満でもなく
多数派の論理に飲み込まれていくこと
国の利益を正義とかみんなのためとかいう言葉に置き換えたとき
若いやわらかい心にそれは簡単に染み込んでしまう
人間誰しも人の役にたちたいという気持ちを持ってて
それをとんでもない方向に向けてしまう思想の恐ろしさ
自爆テロとかを尊い自己犠牲と信じさせてしまうんだからな
私は絶対、戦争は嫌です」

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「僕たちの戦争」荻原浩(双葉社)

荻原浩の本
「ハードボイルド・エッグ」SOLDOUT

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