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生涯一書痴! 病高じて古本屋の店主になってしまった、ぺんぺんの読書日記です。書評ってほど偉そうなものではないですが(汗)読んで楽しかった本、いろいろ考えた本を紹介したいです
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‥‥偶然出会った本にいざなわれ、
不思議な縁や出来事に遭遇する人々の
せつなくてやさしい9つの物語。

「WEBダ・ヴィンチ」で連載されていた
本にまつわる物語」9編を収録した単行本で
著者・角田光代さん自身の本とのかかわり、本の思い出を
描いたエッセイというか、長めのあとがき「交際履歴」もいい。

ネパール、そしてアイルランド・・・
学生時代に手放した本と、異国の古本屋でめぐりあう「旅する本

旅先で寝込んでしまったとき
バンガローの食堂で日本語の本を見つけ
それを置いていった人について思いをめぐらせる「だれか

作家としてデビューすることになった<ぼく>が
子どもの頃、<世界への扉>だった街の小さな本屋を
再び訪れる「ミツザワ書店

病気で余命いくばくもないおばあちゃんのために
孫である少女が本屋をめぐる「さがしもの

別れることになった恋人の部屋で
本棚を整理しながら
本の隙間からこぼれおちるような二人の思い出をふりかえる
彼と私の本棚

など

舞台も登場人物もまったくリンクしていない
「本」にまつわる内容だけが共通している短編集。
こうして、あらすじだけ
書いてみたら、なんてことのない平凡な物語のように思えるが
読後にあふれかえる思いの量は
普通の本の比ではない。
作中の人物たちに
「本」にまつわる、さまざまな思い出があるように
この本を手にした私たちにも
同じように
たくさんの「本」との思い出があるからだ。
「ああ、こんなこと、ある」と
物語の主人公に共感しながら
あの日、あのときの、自分と「本」との出会い
誰もが思い出さずにはいられない。

いま、ここにある「本」と
自分の心の中にある「本」を
同時に読んでいるような
そんな気持ちになる。

「本への愛情」を込めて綴られた物語は、
どれも「本が好き」な人は、
たまらなく共感してしまう内容で
また、作中の「本」に関する言及は、
何度もかみしめて、心の中で反芻してしまうような
名言とも言える言葉が
何気なく、きらきらと光を放っている。

「だってあんた、開くだけで

どこへでも連れてってくれるものなんか、

本しかないだろう」


「1回本の世界にひっぱりこまれる
 興奮を感じてしまった人間は、
 一生本を読み続けていると思う。」


「そう、本は人を呼ぶのだ。」

この三つは特に
表現は違うけれど
ぺん自身が、何度も自分の日記や、本のレビューに
書いたことのあることで・・・
きっと、本を愛する人なら
これらの言葉を自分のこととして
大きく頷きながら、読むのだろう。
ある種の読書家の共通認識のようなものかも?
と思うと、それもまた楽しい。

そして
この「本」自体から
関わった、たくさんの人の愛情が感じられることが
何よりも素晴らしいと、あたしは思った。

カバーそして、各話のあいだに挟まれた写真は
空に飛んでいる本」で
<この本が、必要とされている人のところへ飛んでいくように>
という願いがこもっているようだし
また、すべての短編の文字組みを変えてあることにも
それぞれの話が、それぞれの人にとって
かけがえのない1冊」を
表現しているようで素敵だ。

本を愛している作家が綴った、
本を愛している人たちの物語の愛おしさに
共感した人々が
これまた、できるだけ多くの
本を愛する人たちに届くようにと
心をこめて作った本は
たくさんのやさしさを身にまとって
世界に広がっていく。

世界の片隅で
同じように「」を愛して
」を届ける仕事をしている、ぺんも
ちょっとだけ、お手伝いをしたい気持ちになったので
書いてみた。

「この本が、世界に存在することに」感謝したくなるような
そんな一冊に
あたしが、そしてあなたが出会えますように。

konohon.jpg

「この本が、世界に存在することに」角田 光代
(メディア・ファクトリー)
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テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌

*ネタバレ注意*

目覚めるとそこは軍場だった。
歴史小説家の御厨は関ヶ原を取材の途中、
何ゆえか400年前の大垣城へタイムスリップしてしまう。
時は1600年8月。
天下分け目の関ヶ原合戦を間近に控え、
城内には豊臣方の軍勢が集結、すでに前哨戦が始まっていた。
予言(御厨にとっては歴史的事実)を次々と的中させ
西軍副大将・宇喜多秀家の軍師となった御厨は、
歴史を覆すべく必勝の作戦を立案する。
だが、察知した徳川家康も反撃の秘策を・・・
御厨は西軍に勝利をもたらすことができるのか???

・・・できませんっ!(笑)

なぜなら、このストーリーは
この「逆撃 関ヶ原合戦」と
「逆撃 大坂冬の陣」「逆撃 大坂夏の陣」でワンセットだから(笑)
関ヶ原で、豊臣方を勝利に導くことのできなかった御厨が
再び時を跳んで、大坂での戦に挑む物語の導入部と言えるのが
この「関ヶ原」なのだ。

歴史小説であり
歴史ifモノ(仮想戦記)であり
タイムトラベル小説
戦国軍略シミュレーションというユニークな作品。

この御厨シリーズは
日本編としては
「川中島合戦」「 三方ヶ原合戦」「長篠合戦」があり
その後、なんと
第二次世界大戦やナポレオン時代にまでぶっとぶ壮大なシリーズとなる。

ええと
主人公・御厨太郎が過去にタイムスリップする契機がちょっと笑えます。
彼と先祖の代から浅からぬ因縁を持つゆえか
惹かれあう女性・早苗と
歴史の動く現場近くで、
コトにおよぶ・・・(笑)

えーとえーと、ナニをしまして恍惚感に至ると
時を跳んでしまうという・・・(笑)

柘植さん、つかみ、これでいいんすかっ?ほんとに!

なんですけど・・・(笑)

過去へ跳んだ後の展開は素晴らしいです。
柘植さんは
歴史小説の人というより
軍事・戦略・ミリタリー関係の著作で有名な方で
軍略をメインに語られる合戦のありさまは
リアリティ抜群。
それぞれの人物のキャラクター造形も
史実に忠実でありながら
生き生きとした血肉の通うエピソード満載で
特に、宇喜多秀家、宮本武蔵、明石掃部がすごくいい。

同じ着想のものは多数あって
小説、コミック、映画、ドラマで有名な
戦国自衛隊」なんかも、このジャンルなんだけど・・・
この逆撃シリーズでは
たったひとりの人間が
未来のブツは持ち込めず、その身ひとつで過去へ跳び
頼れるのは、歴史や軍略の知識のみ
その時代にあるのもので

なんとか、起死回生の一手を模索する

というのが結構、ぺんのツボです。

戦においても
人間はチェスの駒じゃない。

疲れもするし、お腹も減るね?
兵糧の問題までつっこんで詳細に描かれてるのが
高感度アップ。
あったかい一杯の味噌汁で士気が上がったりするのが生身の人間だもの。

また、
爆弾やら、ガスやら、生物兵器やら
その時代になかったものを
無理無理に開発しようなんて
御厨はしないけど
当時は別々だった騎馬隊と鉄砲隊を一緒にして
旗本騎馬隊」(足軽に至るまで乗馬し、鉄砲を装備する)なんていう
充分可能でありながら、時代の常識からすると斬新な発想を駆使したりするのが
すっごく面白い。

そんでもって、さらに興味深いのは
御厨たちが戦わねばならない最大の敵が
豊臣方にとって最大の宿敵である徳川家康ではなくて
味方であるはずの
石田光成であり、大野治長だってこと。
一旦、豊臣秀吉が天下統一をなし
武勇よりも、現代で言う官僚による支配に傾いてしまった一時期
いざ、戦となった段に
現場での指揮に優れた武将より
官吏である彼らの発言権が優先される皮肉。
必勝の策を持ちながら
彼らの保身、びびり腰のために、攻撃が後手後手に回ったり
結果として不利な和議に導かれる不運と戦わざるをえない
傑出した、ばりばり武闘派の面々の悲哀。

文字通り、天下分け目の戦いである関ヶ原で
数々の思惑が交錯するさまを
見事に描いた作品。

合間合間に
各武将の紹介がはさまれ
ぺんのように、それほど歴史に造詣が深いとはいえない人間でも
わかりやすく楽しく読めた。
初心者から、マニアな上級者まで
それぞれの距離感で楽しめるシリーズだと思うよ♪

一応、シリーズ全読破を目指します(笑)

19926342.jpg

「逆撃 関ヶ原合戦(上下)」柘植久慶(中公文庫)

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌

いまどきの高校生・小梅と、冴えないサラリーマンのパパ。
16歳と47歳。
ある日突然、二人の人格が入れ替わってしまったら?
ドキドキの青春あり、ハラハラの会社員人生あり。
心あたたまる家族愛を描いた
笑いと涙のノンストップ・エンターテインメント ?

五十嵐貴久は前から読んでる作家さん。
まだそこまでメジャーではないと思ってたんだけど・・・
なぜか、読み終わった日(7月1日)に
TBSの日曜劇場ドラマの放送が始まって、びっくり。
(主演:舘ひろし、新垣結衣
不思議なシンクロニシティを感じたので
取り上げることにした(笑)

五十嵐貴久の小説は
サスペンス、青春小説、時代小説と多彩。
特徴的なのは、元ネタをすごく上手に料理する手腕かな?
安政五年の大脱走』はあの名作映画『大脱走』を
井伊直弼に懸想され幽閉された姫と家臣たちの脱獄劇に仕立てた作品だし
Fake』は『スティング』のコンゲームの楽しさいっぱいで
ハイジャックされたテレビ局で
婚約者を助けるためにヒロインが大活躍する『TVJ』は
思いっきり『ダイ・ハード』なの(笑)

で、この「パパとムスメの7日間」は
なんだろう・・・?
って考えたら
多分、『転校生』・・・・かなあ?
山中恒の「おれがあいつで あいつがおれで」を原作に
大林宣彦監督、小林聡美・尾美としのり主演で
尾道三部作」のひとつとして知られる作品。
尾道から転校してきた一夫と、老舗そば屋の娘・一美は、
ある事件をきっかけに身体が入れ替わってしまう。
男女の身体の違いを痛感し戸惑うふたりだけど、そんな状況にあってこそ気づく、
自分のことや家族のこと、そして互いへの想い。
そんな状況がおかしくも、最後に切なく泣いてしまう青春ファンタジー。
ぺんももちろん見たよう♪
最近、現代のテイストを取り入れて
大林監督のセルフリメイク作品「転校生―さよならあなた―」として制作され
現在公開中。

でも、実はこの入れ替わりネタは
日本では古来からある。
なんと古くは平安朝だぞっ!
まずは「とりかえばや物語
高貴な貴族の家に生まれた男女の双子。
男の子はひ弱で女々しく、女の子は凛々しくやんちゃ。
なんだか性別を取り違えて生まれてしまったみたいな二人。
男装の女児である「若君」は男性として宮廷に出仕するや、
あふれる才気を発揮し、若くして出世街道を突き進み
女装の男児である「姫君」も女性として後宮に出仕を始める。
でも、それぞれ成長しながらも、初めての恋ゆえに
自らの天性に苦悩し始めた二人は今度は元の姿に戻るために四苦八苦。
本来の性に戻った2人は、それぞれ自らの未来を切り開き、
関白・中宮という人臣の最高位に至る。
これを少女小説にアレンジしたのが氷室冴子の小説『ざ・ちぇんじ!』で
山内直美によって漫画化もされてる。
まあ、この二人の場合は単に、男装女装で
心が入れ替わったわけではないけど。
この発想がこんな昔からあることは興味深い。

最近の作品では
唯川恵の「今夜は心だけ抱いて」
五十嵐作品と同じ着想だ。
幼いころ、離れ離れになった母娘がある事故がもとで体が入れ替わる。
そして知る、互いの立場の長所、短所。
それぞれの運命を受け入れ、
憎しみあっていた二人の関係が改善されるさまを
恋愛主体に描いたもの。

他にも
かのベストセラー東野圭吾の「秘密」
(妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。
妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。
その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まる。)

別人ではないけど
ある日、目が覚めたら17歳だった少女が
時を跳び、同じ17歳の娘を持つ40代の母親である未来の自分になっていた・・・
身体という器は、おばさんなのに
心はみずみずしい高校生というギャップが切ない
時空ものの名作が北村薫の「スキップ」

他にも・・・・いろいろ。
枚挙に暇がないほど。
そんなわけで入れ替わりモノと言えば

二番煎じどころか、すでに出涸らし状態のテーマだよう???
これを、敢えて書くとは・・・・

どうするんだ???五十嵐!

と正直思いました(笑)

でも、おもしろかったんだよ!これが

大手化粧品メーカーに勤め、
新商品開発プロジェクトのリーダーとして
御前会議を控えたサラリーマンの父と、
憧れの先輩とのデートと期末テストを目前にする娘。
地震による脱線事故に遭い、人格が入れ替わってしまった二人は
それぞれ
」と「会社での微妙な立場」という
普通なら家族には見せたくない領域を
共有することになる。

タイトルの通り
7日間で元に戻るであろうことは予測できるし
ストーリーもかなり予定調和的に進んでいくのだが
エピソードの積み重ねで
ぐいぐい読ませる。

父を疎ましく思い、遠ざける年頃のムスメと、
それに寂しさを覚えつつ上手く気持ちを伝えられない父との距離感の
描写が絶妙。
それぞれに大事なイベント?を控えているため
元に戻れるまで一時的に共闘体制をとることになる父娘だけど
普通に日常生活を送るのが結構、大変。
トイレや風呂問題が意外に切実だったりして笑える。
女子高生にしたら
自分の体は

「見るな!」「さわるな!」「ぶっ殺す!」

なわけで(笑)
母親がいない隙に、
意識はパパのマイボディを(笑)目隠しして風呂で洗ってあげたりする。
父は父で、メールを打つのに一苦労したり(笑)

男女の性差へのとまどいは
前述の『転校生』でもコミカルに上手く描かれていたが
そこに47歳の中年サラリーマンと、16歳のバリバリ女子高生
というジェネレーションギャップをからめたとこが
五十嵐風味。

どっちに感情移入するのかは
読み手によるだろうけど、メインとなる
憧れの先輩との初デートの顛末
会社の大事な会議
はどちらも、楽しい。

特に、あたしは
社運を賭けた新企画?と言いながら
結局、各部署のメンツを立てただけ
旧態依然としたお偉いさん方のこれまたかわりばえのしない発言により
なーんの新味もない商品に成り下がろうとしてるパパがリーダーの企画会議で
「買うのはあたしたちなんだよ?
誰のための商品なんだよ?!」

とマジ切れちゃった小梅(ムスメ)ちゃんが
女子高校生的見地からの
マーケティングに関するストレートな意見を
大爆発させるあたりが、めちゃくちゃ楽しかった♪
「忌憚なく意見を述べてくれたまえ」
なーんて言いつつ
結論は決まってるみたいな会議に
嫌気のさしたことのあるサラリーマンなら誰でも

このシチュエーションは愉快痛快!(笑)

笑えて、ちょっと胸のあたりがほかほかするタイプの本が好きなら
おすすめできる。

papatomusume.jpg

「パパとムスメの7日間」五十嵐貴久(朝日新聞社)

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌

表題作「夜市」と「風の古道」という
二つの中編が収められた作品集。

不思議な夜市に紛れ込んだ兄弟をめぐる怪異譚である「夜市」は
第12回日本ホラー大賞受賞作
大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から
「夜市にいかないか」と誘われた。
裕司に連れられて出かけた岬の森では、
妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。
夜市では望むものが何でも手に入る。
小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、
自分の幼い弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。
野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、
弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。
そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが・・・。
市で商われる不思議な品々。
怪しい売り子たち。
取引をしないと決して出ることの出来ないその場所で
兄弟がそれぞれに、過去への思いを解決するために
選んだ方法とは。
心を揺さぶるような結末へと一気に誘われる心地よさの絶品。

風の古道」は異界の古道に迷い込んだ少年の話。
家々の裏側を走る道は
単なる裏道、隠れ道ではなく
大昔から日本にある特別な道だった。
普通の人間には通れないはずのそこは
怪かしが行き交い、人間の世界とは異なるルールがある。
幼いながらも彼は一人で選ばなくてはならない。
生きるために、家に帰るために、友のために。
水先案内人となった古道生まれの青年レンの口から語られる
不思議な過去の因縁とは。

これらは「狭間の世界」の物語である。
」と「」という
時空の<綻び>のような場所で
現実世界と、それに隣接するパラレルワールドのような怪しの世界が
交錯するときに起こる不思議な出来事を描いた作品。
そして、主人公たちも少年、青年という
子どもと大人のあいだの
ある意味、「狭間の世界」の住人である。

どちらも
そう長くはない物語だが
ものすごく完成度が高い。
民話のような味わい、そこはかとなく悲しみをたたえた空気、
永久放浪者」という魅力的な言葉。
細部まで作りこまれた不思議な物語世界は
それだけで秀逸で、純文学のフィールドでなら
その一端を描写して見せるだけで、充分読ませる作品であろうに
きっちりと起承転結がつけられ
ひねりの効いた結末や、かなり予想もつかない真相は
ミステリーの味わいさえ感じさせ
質の高いエンターテインメントとして完成してる。

すごい。

そして、文体が何より素晴らしいと思った。
作品の世界観からはゴシックロマン風な美麗な言い回しが
似合いそうではあるのだが、
そんな陳腐な自己満足に陥るような作者ではないらしく
洗練され、すっきりした無駄のない文章、
余分なセンチメンタリズムを排した知的な言葉が
かえって、幻想的な世界と、叙情的な雰囲気を
浮かび上がらせていく。
さらりと通り過ぎていきながら
じわじわと余韻の残る美しい言霊。
お手本としたい綺麗でくっきりした文体に、ため息が出たよう。

本を読み慣れてる人なら
2時間もあれば読めてしまう分量だけど
読み終わるのがもったいないと感じるくらい美しく怪しい本。
異界を旅する感覚にひたれる。
読後も、身体と心にまとわりつく濃密な闇の気配さえ
物悲しく愛しく思える。

とにかく、読みやすい本なので
(なんとなく、昔から、一般的には
難解なものを読みこなすことが高尚なイメージだけど
リーダビリティを馬鹿にしてはいけない。
「読みやすい」文章を書くということ
複雑な事柄を平易に説明することは実は本当に難しいことなのだ。)
普段は、小説より漫画が好き♪という人も
楽しめると思う。
今市子の「百鬼夜行抄」CLAMP の「XXXHOLiC」など
和風ゴシックなホラー味と、繊細で綺麗な作品世界を愛する人なら
きっと、これはいけるはず。

親子で読書を楽しめる人は
お子さんに回してあげるのもありかな。
文章の読みやすさは先に語ったとおりだし
ホラーとはいえ、不必要なまでの陰惨さとか、
悪意のようなものは希薄で
昔話、お伽話で子どもが触れる程度の残酷さはあっても
読後感は、物悲しさ、切なさの方が勝ります。
子どもの方が、むしろ異界を感じる能力に長けてるから
惹かれるかもしれない。
我が家の子ぺんぎん1号も
あたしの枕元に置いてたら、興味を示し
「読んでもいい?」
というから貸したら
話しかけても気付かないくらい真剣に読んでた。(笑)

やっと、昨年末に待望の受賞後第一作である単行本
「雷の季節の終わりに」(角川書店)が出たところで
これからの作家さんだけど
新刊を楽しみに待てる作家がいるというのは
それだけで読書家にはしあわせなことだ

うれしい

yoiti.jpg

「夜市」恒川 光太郎(角川書店)

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神奈川県警は、全く手がかりがつかめない連続児童誘拐殺人事件
手をこまねいていた。
万策尽きかけていたそのとき、
打開策としてTVメディアを使って犯人に直接呼びかけを行い
犯人の反応を待つという前代未聞の捜査方法が提案され
大衆の前に立つ広告塔として、白羽の矢が立てられたのが巻島である。
彼は過去に、児童誘拐事件の捜査に失敗し、
その後のマスコミ対応でも失態を演じたために、
左遷させられていた刑事。
かつて自分の身を破滅させたマスコミを手なづけ、
事件を解決しようと試みる巻島の苦闘と
個性的な登場人物たちの思惑が複雑に絡み合いながら進行する
“劇場型捜査”を、
圧倒的な臨場感で描く異色の警察小説

もちろん、ミステリーに分類していいタイプの本だと思うし
実際、2004年度のミステリーでは
国内ナンバー1に選ばれたりしてるんだけど
むしろ、普段あまりミステリーを読まない人に
おすすめしたい作品。
トリックで読ませる小説でないし、大きな仕掛けがあるわけでもない。
でも、とにかく、「人間」がきっちり描かれていて
そのリアリティと心情への共感で、物語にあっというまに取り込まれてしまう。

本を読みなれていない人は、たぶんドン引く
370ページ2段組のヴォリューム(笑)
でも、だいじょぶ!
とにかく読み始めてみよう
きっと、ページをめくるのがもどかしいくらいのスピードで
物語があなたを運んでくれる。
震えるような結末へと。

まずはテレビを使っての劇場型捜査という設定がいい。
これに関しては、荒唐無稽とか、「ありえねー」的な
感想もあると思うが
怨恨などではなく、何の共通点もない男児だけを狙っての誘拐殺人
自らをバットマンと名乗る犯人
典型的な劇場型犯罪(演劇の演出のように、マスコミを通じて大衆に知られる際の、
効果への狙いを感じられる犯罪)に対して
自尊心をくすぐること、挑発すること、動揺を誘うことを
目的とした劇場型捜査は有効であり
漫画『DEATH NOTE』
L(エル)がキラの犯人像をしぼるために
テレビで呼びかけたシーンと同様
充分にリアリティが感じられた。
日本で劇場型捜査が行われる日はそんなに遠くないかも。

そして、キャラクター造形と人物描写の上手さに
引きこまれる。
主人公、巻島はエリートコースからはずれた
アウトロー的な敏腕警視という
この手の警察小説では
それほどめずらしい設定ではないが(大沢在昌の「新宿鮫」の鮫島とか)
大きな失敗の後のある種の諦観を漂わせつつ
表にはあらわさない諦めきれない何か
刑事として忘れてはならない何かを胸に抱き
意地と覚悟と矜持を持って
自らの仕事をまっとうしようとする揺ぎ無い意志が
巻島というキャラクターに強いオーラをまとわせる。
巻島だけでなく、
彼を支える温厚で人の痛みを解する「津田長」こと津田刑事や、
老練なニュースキャスター、
多くを尋ねたりせず、朗らかな気性で家庭を守る巻島の妻
チョンボの名を冠したダメ刑事
現場の人間をコマのように、事件を他人事のようにしか感じられず
捜査情報を好きな女性の気を引くための道具に使う歪んだキャリア管理官
そして被害者と被害者の家族
など
多くの登場人物の個性がくっきりと描かれていることが
物語に厚みとリアリティを与えている

そして何より、この物語の面白さは
重層的な構造だろう。
巻島が闘う相手は一人ではないということ。
至上の目的は犯人逮捕であるが
捜査は単なる正義と悪の対決だけでは終わらない。
巻島はすべてを賭けて犯人と対峙する前に
別の大きな敵とも闘わないとならないのだ。
警察機構と獰猛なマスメディア・・・
この強大な<組織>はある意味で犯人以上に厄介で
ただ一人で孤独な闘いを強いられる巻島の姿に胸が苦しくなる。

警察>においては
一部のエリートを中心とする独善的な采配
所轄同士のの連携の希薄さ
新型犯罪に対応しきれない旧型の捜査方式
私利私欲のためのリーク

テレビというマスメディア>においては
視聴率という数字がすべての他局とのあざといスクープ争い
一部の意見を世論へとすり替える意図的な情報操作
人権を無視した取材合戦

二つの組織の打算や思惑が入り混じり
いったい誰と闘っているのかわからなくなるような徒労の繰り返しの中で
ささやかな成果を繋ぎ合わせ
姿の見えない相手からの悪意」を
巧みにかわして少しずつ少しずつ、犯人へと近づいていく巻島。
けれど、日に日に彼への批判は高まり
残された時間は減っていく。

「バットマンに告ぐ
お前は包囲された・・・(略)

・・・今夜は震えて眠れ


ラスト近くの巻島の台詞で
あたしが震えました(笑)

現実の捜査同様、物語の中でも
早々、都合よく犯人は動いてくれない
ましてや、獅子身中の虫のごとく、警察内部から邪魔が入る・・・
すっかり作者の術中なんでしょうが(笑)
思うように進展しない捜査と
上手く行っていたと思われたマスコミ対策の中で吹き始めた逆風
上司からの最後通牒とも言える発言などで
巻島に感情移入すればするほど
読んでる自分も焦燥感のピーク(汗)

そこで・・・・!!

この本のタイトルの示す箇所であり
読者も、巻島と一緒に耐えて耐えて耐えて
最後の反撃が始まる合図
ここから、様々な伏線の解決があり
心理ドラマが怒涛のごとく最後の一行に向けて収束していくわけで
この台詞自体は
ミステリーにおける「お前が犯人だっ!」みたいなキメの言葉では
決してないんだけど(笑)
やっと、ここまで・・・
という、強烈なカタルシスはすごいです

今夜は震えてください(笑)

さてさて。
読んでる最中も映像が脳裏に浮かぶような作品で
書評なんかでも、
映画化されたら誰が巻島役を演じるのか
が話題になってたけど・・・

もう決まってるんだ!?(汗)

うおおおお

トヨエツかあああ
ちょっと若すぎないか???(笑)

映画「犯人に告ぐ」は、
WOWOWが設立した劇場映画レーベル「WOWOW FILMS」の第1弾として
瀧本智行監督、豊川悦司・石橋凌・井川遥・松田美由紀らの出演で制作
先日(6月24日)にWOWOWで一夜限定で先行放送され
今秋劇場公開だって
ちょっと観たい・・・

*おまけ*
その「WOWOW FILMS」の第2弾(2008年公開予定)は
先日、ここで紹介した「きみの友だち」(重松清)が原作
うむむむ、なかなか渋いセレクトだにゃ(笑)

hannin.jpg

「犯人に告ぐ」雫井脩介(双葉社)

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プロフィール

ぺんぺん

Author:ぺんぺん
古本ぺんぎん堂店主
☆成分分析:
ぺんぺんの90%は本でできています
残りは音楽と映画と酒と美味しいものでできているようです

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ぺんぺんファンのショッカーのみんな
暇だったら一日一ぽちっ(笑)
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